「戦わずして勝つ」が格闘技の極意らしいすね

昨日はイップ・マン 葉問(新宿武蔵野館)→グリーンホーネット(新宿ミラノ)→ブローンアパート(シネパトす)とみまして、イップマンは詠春拳という中国拳法を極めた実在の方の在りし日の姿を映画化したものだそうで、この作品のどこらへんまでが真実なのかをパンフとかで全然書いてないんでよくわからんのですけど、あれぜんぶ実史だったらえらい燃えるなあ。イップマンさんはもともと中国の田舎の村で詠春拳を市民に教えてたみたいなんですけど、なんか日本軍がらみでモメたことが原因で妻子を連れて香港に移住してきて、食うために武館(日本でいう道場)を開くもののいくら張り紙告知だしても応募者がまったくこず、やっときた冷やかしの若者をかるくひねったら今度は数人の仲間づれで襲ってきて、それもノしたら全員がひれ伏して弟子入り志願しはじめて…と好調なすべりだしかと思った矢先、弟子のひとりが街中で他派の門弟とモメた挙げ句、師匠であるイップマンさんに金銭持参の詫び入れを要求してくる。指定の場所にイップマンさんが訪ねていくと魚市場で、イップマンさんが丁重に詫び入れするも金を持ってきていないことを知るや屈強な野郎どもが幅広包丁を手に手に襲いかかってくる…。この展開でひと暴れしたあとに魚市場を牛耳ってる洪拳の師匠(サモハン)がでてきて、この街での武館を持つための過酷な掟―街にある武館の師匠全員と拳を交えて1回でも負ければ武館を持つことを諦めねばならない―旨伝えてくる。この掟の戦いが屋内で行われるんですけど、不安定な円形のテーブル上で戦わねばならず、そのテーブルから落ちると負け。テーブルの周囲の床には椅子が逆さにして所狭しと置かれている(かつては椅子ではなく剣を上向きに設置して行われたらしい。テーブルから落ちた者は死ぬ)。何人かの師匠と戦い抜くイップマンの強さをみた他の師匠たちが尻込みするなか、ついにサモハンがイップマンと対峙する。イップマンとサモハンの戦いは壮絶なんですが、それまでにイップマンと拳を交えた師匠たちとは格がちがう感じがちゃんと演出されててよかった。それまでの師匠たちは拳法を繰り出すことに終始してる感があるんですけど、サモハンはちゃんと足場をうまく利用したりと状況に応じてあのテこのテでイップマンを圧倒する。拳法とかぜんぜんわからんですけど、弟子募集時に冷やかしの若者たちと一戦交えたときとか、イップマンさんが倒れた青年の頭を床に打ち付けないようにそっと手で支えてたり、痛めつけないように寸止め連発したりとすごい思いやりのあるしぐさをたくさん差し挟んでるんですよね。魚市場での戦いでも包丁を手にしても専ら打撃にしか使ってなかったし。先の掟の戦いではイップマンさんは師匠連から能力を認められるんですけど、けっこうな上納金(月100ドルって言ってたけど1ドル360円以上の価値だったろうからかなりキツい額っぽい)を要求され、正義感のつよいイップマンは私服を肥やすことに加担したくないから、とその場を後にする。以来、イップマンの弟子に対して洪拳の弟子たちが挑発や嫌がらせをしてきて、モメごとが何度も起きたせいで借りてる場所を退去せざるをえなくなる。それでもくじけず、街の公園で市民にまじって拳法の稽古をつけるイップマン。そこへサモハンがふらりと現れ、イップマンにある試合の券を渡してくる。その試合のメインイベントがボクシングで、前座で中国拳法の演武をする予定だったんですけど、試合にでるイギリス人ボクサーが典型的な極悪キャラで暴力的なのはいうまでもないんですけど、試合やる前から演武中の武館の弟子たちの間に入ってきて「HAHAHA!なんだァ〜?このサルども踊ってやがるぜ?」みたいに上から目線で見下しまくるもんで、怒った弟子たちがくってかかってくものの、重量級(多分)のクソ重たいパンチの餌食になって次々とマットに沈んでゆくので、そのなりゆきで中国拳法の師匠VS.イギリス人ボクサーという異種格闘技戦が即席で行われることになるんですが、師匠たちは人種的にも拳法家としても侮蔑されまくってカッカしてるし、ボクシングという技をおそらくはじめて目の当たりにしたという二重の弱みで追いつめられてゆく。中国拳法の師匠たちを嬲り殺しにするイギリス人ボクサー役の人の怪演もなんかもう凄まじくて、外道坊に出てきてもおかしくないレベルの傲慢な悪鬼キャラです。興行を取り仕切ってるイギリス人高官も悪徳なんですけど、スマートに取り仕切るなんてしなくて「お前ら中国人ごときがこの私と対等に渡り合えるとでも思ってるのか?このクズどもがァァ!! 」みたいに悪鬼キャラすぎてわかりやすすぎる。つーかさー植民先の人の神経を逆撫でするようなこと(言論の自由を踏みにじるような事もやってたな)をイギリス人がやるかなあ?まあこのへんはちょっと創作入ってるのやもしれませんけど、ちゅーごくの方の愛国心カタルシスを高揚さすための装置キャラとしてはとてもうまくいってると思います。でまあ拳法VS.ボクシングが開催されるんですけど、1撃必殺のボクシングに比べて1撃が軽く手数の多い拳法のほうが圧倒的に不利なのにイギリス人ボクサーが容赦なく半殺しにかかってくるし、マットに沈む際もなんかヘッドギアとか一切つけてない(昔のボクシングって凶暴ですね…)から倒れてもろに頭打つんですよね。師匠側が戦意失ってロープ際で一方的にタコ殴りにされてんのにジャッジぜんぜん止めないし。ありゃ死ぬよ。グローブも今にくらべると小さくて拳に近いから衝撃強いでしょうし。最終的に中国拳法の誇りをかけてイップマンがリングにあがることになるんですけど、このクライマックスのエピソードに関しては「凶悪無比で強大すぎる敵feat.汚い手ばかり使う」+「主人公側が不利な条件ばかりな中で諦めずに立ち向かう」という王道少年漫画の落差設定を正面きってしっかり描いてるので、単純だけどとても見応えがあります。このイップマンさんの香港でのエピソード作品は実は2作目で、もといた田舎での日本軍とのエピソードが前作で描かれているそうなんですが、今公開中の2作目の観客数が5000人超えないと1作目が公開されないとかなんとか。その件はエンドクレジット後に告知として流れた1作目の映像のあとに出てたんですけど、その香港にくる前の田舎で柔道(空手かな?)の使い手の日本軍の兵士と1戦交える映像があって、イップマンと対峙した道着姿の日本人の兵士(たぶん高官)がいかにも高慢な感じで「貴様、名は?」と聞くシーンがあったんですけどあの俳優さんどなたですかー!!なんだあの色気ムンムンの威丈高で鬼畜の日本軍兵士!日本人兵士はもっとああゆうヒドいサディストとして描くべき!つーわけでみんなして今公開中のイップマン(実は2)をみにゆくように!あの色気ただよう鬼畜日本兵をぜひスクリーンでたんのうしたい!ただ、それだけです。
余談ですけど、物語で格闘技が題材になってると「相手の挑発に乗らないこと」みたいに師匠が弟子に対して精神修練的な教えを授ける展開がよくありますが、今作ではそういった心身鍛錬的な諭しをイップマンさんが授けるようなシーンが一切なくて、そうゆうのはもしかしてけっこう後になってから編み出されたものなのかな…?とか思いました。なんつーか近隣に迷惑をかけない的な最低限のマナーのような教えって暴力をふるうものにこそ大切なもんじゃん。今作ではそうゆう描写がなぜかすっぽり抜け落ちてるんですよね。イップマンさん自身の争い嫌いで優しく謙虚な性質や、食うに困ってる労苦はよく描けてるんですけども(この描写があるからこそ無敵超人的なキャラクタとは一線を画して「拳法を使うけれども私たちと同じ人間である」と感じられる親しみ深さがある)。なんか全体を統率する責任についてはあまり考えられない人だったのかな…?とちょっと思ってしまった。それができてたら無用な軋轢も起きなかったように思えたので。あと木人もでるよ。
グリーンホーネットは大新聞社の社長が死んでから跡取息子が財力を活かしてかねてから憧れだった正義の味方ごっこを繰り広げるかんじの話。この跡取息子が根は正義漢なんですけど、お調子者の直情バカ(証拠が必要でターゲットと会話してる最中、黙ってりゃいいのに突然録音器具取り出して「今の会話録音してやったもんね!やーいバーバーカ」とか言い出す)なので裏をかくつもりが失敗すること多数なものの憎めない風。監督さんがラブコメ(だっけ)の人なんで生活上のこまかい笑わせネタとか、意外にアクション映画とピッタシですね。アクション意外のとこがちゃんと描けてるアクション映画は充実してますな。ふつうのアクション映画でありがちな「美人がでてきてトントン拍子にうまくいっちゃう」アレを嘲笑する的なくだりもよかった。悪役がベタすぎるかんじではありましたしだいぶ寝ましたけど。
ブローンアパートは夫と子供をユアンマクレガーとの情事中に失ったことで自暴自棄になったミシェルウィリアムスが狂っていったり悪い虫がついたり立ち直っていったりする様子を描いただけの話。孤児院に入れられた子が自分の人生と向き合うまでの様子を淡々と描いた冬の小鳥と同じ傾向の娯楽性はものすごく薄い作品です。なんかシネパトすでは最近このテの鑑賞後に寂寥感をうっすらと抱くだけ、みたいな作品を流してますけど、面白いわけでもためになるでもないのになんとなくみにきてる。