邦題は対象でなく「誰かを愛してる中の人」のことなのかな

RED(11日。丸ピカ)→愛する人(しね)とみまして、愛する人は10代はじめに生んだ子と引き離されて以来心を閉ざしたまま生きる中年女性(アネットベニング)と、その引き離された子供(ナオミワッツ)と、望まぬ妊娠をした少女の子を養子にもらおうとしている若夫婦のそれぞれの愛情に対するこだわりとその顛末を描いた物語。ベニングが年老いてもなお心を閉ざし続ける原因が子供と引き離されたことではあるんですけど、それがベニング自身が望んだことではなくてどうやらベニングの母親が強いたらしくて、劇中ではっきりとは描かれないんですけど、たぶんベニングが妊娠した時に母親が「うちの娘の年齢で子供をもつのは不幸になる」と思い込んで、よかれとばかりに妊娠した子を手放す決定を娘に強制してしまった。それは悪意ではなくてあくまで娘の身を案じる一心でしたことで、娘であるベニングもそれをよくわかっていて、だからこそ「愛情というのは他者を突き放す」ことなのだと勘違いしたまま年老いてしまっているような感じ。ベニング家にはベニングと介護の必要な母親だけがいて、父親の存在がまったくないあたり、もしかしたら離別したのかもしれない。だとすると娘であるベニングは「愛情を基底にした」対人関係として「突き放す」ことしか家庭内で目の当たりにしていなかったことになる。他者を大切にすることは「相手を受け入れる=受け入れられる」という意味の愛情が大前提だということは多くはある年齢になるとわかってくるものなんですけども、ちいさい頃から「離れることが愛」みたいな光景を家庭内で再三みてしまうと老いるまで勘違いしかねないかもしれない。たとえ口頭でそれは違うと言われたとしても、幼少期から生を左右するようなショックの大きい現場をしょっちゅうみせつけられたとしたら、いかな言葉もなんの意味もないように思えるんじゃなかろうかと思う。離婚は対人愛とは別の問題のもんですけど、幼い時分からしたらそれが愛というものの形なのだと勘違いしてしまったりするかもしらん。いま書いた心証はまったくの推測でしかないんですけども、そういう自分では気づかないほどに染み付いてしまった意識があるとしか思えないような不器用すぎる生き様をベニングがしているわけです。気になる男性が近づいてきてもちょっとした会話でひどくトゲのある嫌みをぶつけてしまったり、お裾分けを激怒して突っ返したり、家政婦が生活上の事情で勝手に子供連れてきてるとみるやヒステリックに叱ったりと対人関係をことごとく断ち切る的な所作ばかりするベニング。唯一のこころのよりどころである介護の必要な母親までが、ベニングには話さないようなことを家政婦母子にだけ打明けたりしはじめ、ますますかたくなになってゆく。介護の必要な母親が家政婦にしか話さないのは理由があって、それは娘であるベニングを老いるまでかたくなな性質にしてしまった原因が自分にあることを悔いているからなんですが、それを娘であるベニング当人に正直に話せばいいのに、プライドがあるかなんかで決して話さないんですね。親が肉親である娘にすら心を開かないので娘も開かない状態になってる。で、ある事件を境にベニングは自分がなにを欲しかったのか、そしてなにか間違っていることを漠然と悟って、思いきって若い頃に子種を植え付けられた相手に突然会いにいって寝てみたりもするんですけど、目当てのものはみつからない。なんとなく日々の生活のなかで柔軟な態度になりはじめたある日、同僚男性とのデートでベニングはある打ち明け話をする…。そうしてベニングがようやく他者との邂逅をしかかっている一方、引き離されたベニングの子供であるナオミワッツのほうは腕利きの弁護士としてなんの問題もなく人生を切り開いてるように見えるんですけど、新しく就職した大手事務所の社長(経営者?)のサミュエルLジャクソンがちょっと自分に気があるとみるやアグレッシブに自宅へ誘って上に乗っかかって犯したりするんですが、ジャクソン1本なのかなーと思いきや隣家の若夫婦の夫を誘惑したうえ家まであがりこんで浮気したのが確実にバレる仕込み(隣の奥さんの下着棚に自分の生脱ぎパンツを入れる)までする悪魔女っぷりを発揮しはじめる。なんかナオミワッツは仕事はすごいできるのになぜか引っ越し&職場替えをしまくっていて、それはどうやら対人関係で本気になるのをものすごい避けてる(自分に対して本気になった人がでるたんびに離れる)のが原因らしくて、最後のほうでワッツがとある理由からジャクソン実家に赴くんですけど、ジャクソンち内がやたらに大家族で和気あいあいとしてて、その中でワッツがいかにも身の置き所がない、みたいに怯えてちいさくなってポツンとしてる光景があって、なんかワッツは「家族」をはじめとする打ち解けた関係そのものに対して見ないフリをするあまりに憎悪を抱くようになってしまったのかなと思った。生い立ち上から発生した「強烈に渇望しているのに決して手に入らない」という葛藤と折り合いをつけるために課していた心の態勢がさらに硬くなってしまった的なアレで。隣家の夫を誘惑したうえ夫婦仲をこわすような行動をするのも「夫婦や家庭なんてこんなに簡単に壊れるのよ。くだらない。あんたたちバカじゃないの?」という心持ちで、上司のジャクソンとのセックスで常に上でしたがるのは「どれだけ渇望しても手に入らなかった親の愛情を父性的な年齢の男をねじふせて意のままに操ることで擬似的に手に入れる」というかりそめの満足感を得たいからなんじゃないのかなーとちょっと思った。でもそうやって夫婦や家族といったものをせせら笑うような生活を送ってるわりにいくら引っ越しを繰り返しても住まい&職場はベニングの家のある土地からは決して離れず、ベニングの家のまわりを常にうろうろしてるんですよね。悲しみにフタをするあまりにこじれてしまった感。あと職場で上司であるジャクソンと会話する際に「必ず満足させます」みたいな言葉を連発するんですよね。その言葉どうりにキチッと仕事もするんですけど、なんかジャクソンに対して「満足させます!満足させます!」て連発してるあたり、結果だすから!言うこときくから離れないで!てちいさい子が泣きながら親にすがってるような印象を受けるんですよね。画ヅラはエリートがサラッと軽く言い放ってる画なんですけど、なんかそんな雰囲気かんじた。そのわりに相手が本気みせてくると職場やめてまた引っ越して逃げ出しちゃうしな。上司のジャクソンのほうもワッツに惹かれはするんですけど、ワッツの抱えたマンドクサい心証を薄々感じてるらしくて、ワッツが離れるってなっても引き止めたりしないし。特にワッツの居所と妊娠がわかったときにジャクソンがわざわざワッツのところまできて、プロポーズするのかな?と思いきや「いま数ヶ月前に出会った素敵な女性と付き合ってるんだが、君が望むならその人と別れて君と結婚する」とかできちゃったなら仕方なく結婚するよ的な前置きのある提案(←重要。真に愛する女が自分の子を身ごもってるのを目の当たりにしたら男は1も2もなく熱烈にプロポーズするモノですが、このやんわりとした「提案」にとどまったのは「本当はワッツといっしょになりたくない」という本音があるため。愛情からではなく責任でそうするのだと告げている)をするあたりで如実にあらわれてるんですけども。まあジャクソンとしてもエッチのたんびに女に組み伏せられる屈辱感を味わうのは疲れると思ってのことなのでしょう。特殊な性癖でもないかぎりああいうエッチはふつうの男はちょっとヤだと思うでしょうな。こうまでこじれちゃったワッツにはどうにかシアワセになってもらいたいと思うものですが結末までが悲惨で、ワッツは出産の際に命を落とすんですけど、その原因となったのが若き日に施した卵管結紮という避妊手術でなんというか・・他者を遠ざける方法の究極である避妊手術が命とりの原因になったあたりがワッツ演じるキャラの生涯を象徴するかのようだな・・と思って胸が痛んだ。あの避妊処置さえしていなければ死ぬこともなくふつうに出産できてたかもしれないのに。
あと若い妊婦から生まれる子を養子にもらおうと思ってる若夫婦の件も描かれますが、子供を望む夫に対して引け目を感じるあまりに養子縁組にはりきりすぎる奥さんとか、いざ養子をもらう段になって夫が「血がつながってない子供とかイラネ」とか言い出して夫婦仲がこじれると同時に愛情もなくなってしまったり(愛情よりも血縁を優先する本音が土壇場で出て相手の心証がようやくわかる)、いざ赤ん坊をもらってみたら想像とかけ離れすぎててさっぱり愛情をもてないとか「子供は生まれる前と後ではいろいろ違う」というアレが描かれていました。女性脚本家がスジ書いたジュノよりリアルに感じました。まあでも男性だからこそ冷静にこういうこと書けるのかしら。ロドリゴすごいという結論。それとジャクソンのエリート風体はおっさん好きにはグッとくること請け合い。見栄えがするなあジャクソン。

REDはなんか血なまぐさい戦いのはずなのに凄絶な戦い感がまったくないせいでハラハラ感もまったくなく移入もないので誰が死んでもなにも感じませんでした。へたにコメディ風にしたのが裏目に出たっぽいのと、もっとカールじいさんの空飛ぶ金玉みたいに老人とくゆうのヨボヨボ感をたくさん活用してほしかった。全員老いをみじんも感じさせない超人っぷり全開なとことか老人キャラ設定が意味なくねーか。膵臓ガンだとか申告しといて苦しむ描写皆無だし。いちいち設定ほうりっぱなしなんだよねえ。あれじゃせっかく老人客寄せ的な設定にした意味がねーよ。年寄りならではのつくりをしなきゃ共感もなにもねーだろ。観客層は主要キャラたちと同年代とおぼしき年齢の方々でいっぱいでしたけど。そんで年寄りたちに押しやられて超はしっこの席で首をへんに曲げながらくるしくみましたけど、巨大スクリーンて端っこからみるとブルースウィリスの頭がナナメにのびるのな。そこへフリーマンすぎる人が入ると茶色い頭がナナメにのびた。REDなんかに時間と金費やすよりイップマンみたほうが確実に人生が豊かになるよ。