ポポポポ〜ンとそうでないモノ

面白かった映画2011
 1.キラーインサイドミー
 2.シリアスマン
 3.アンチクライスト
 4.ムカデ人間
 5.俺たち踊るハイパー刑事!
 6.ドライブアングリー
 7.ナッシュビル
 8.ザ・ファイター
 9.イップマン2
 10.ザ・ホークス
 
人命断舎離実践映画…内容に関係なくジム・トンプスンの原作小説がリアルタイムにかなり良い出来で映画化されたっていう理由だけで今年の1位はまごうことなくコレ。センダック映画と理由はまったく同じ。俳優陣も若すぎずベテランすぎずちょうどよいメンツだった。内容に関係なく、とは書いたもののいかにも低予算で抑えた的なクライマックスの安い演出がかえって読み捨ての三文小説だった原作の出自とあいまって結果的にオマージュっぽく働いた気がする。話としてはあらかじめ頭のネジがない状態で生まれた男が欲望のまま身近な人間を消し去ってゆくという、ヒトによってはくだらんモノにしか思えないであろう内容ですが、そのくだらんモノにある日突然皆殺しにされたりするので油断はできません。キラーインサイドミーはルーの異常性質に目がイキがちで本筋に目がむきづらいのですが、ルーは一応昔自分の身代わりになってチェスターコンウェイに殺された兄貴(養子)の仇討ち的な理由もあってコンウェイの息子をブチ殺してんだね。兄貴みたいに自分に肩入れにしてくれた人間にはそうやって義理堅いところをみせるわりに信頼してくれる相手から受けた恩を仇でかえす(というか単に殺意が優先しちゃうだけなんだろう)ようなマネして一貫してないよなあ。そうだ…!ここで殺しちゃえば面倒なヤツは片付くし俺はきもちいいし一石二鳥じゃね?みたいなふうに短絡的に。秋の上映で何度かくりかえしみて思ったんだけど、映画冒頭のルーとジョイスが出会って尻スパンキングから接吻に流れてく箇所が何回みても胸がしめつけられる最も悲しいシーンだね。あの接吻でふたりは地獄に堕ちたんだなと思った。しかも同じ地獄じゃなく、それぞれがまったくべつの地獄に堕ちる瞬間そのものを目の当たりにするのでひどくもの悲しい。この映画くりかえしみてるときにマルホランドドライブもみたのであらためて思ったんですけど、マルホランドドライブとキラーインサイドミーには共通点がなぜかものすごく多くて、もしかしてどっちもある種ノワールもののテンプレかなんかにのっとってんのかな…?キラーインサイドミーでのルーとジョイスが地獄に堕ちる瞬間の接吻のシーンにあたるのがマルホランドドライブでは黒髪のほうが金髪に染めなおした直後のナオミワッツとのレズシーンで、あすこのシーンでかかる音楽もすっげえ悲しい音楽なんだよね。ああ、このふたりもそれぞれが別々の地獄に堕ちるのだと感じた。あの黒髪を金髪に染めたシーンはなぜかひどい禁忌を犯したように感じるね。なぜだかわからないけど、あの世界では決してやってはいけない事のように思った。ふたりが別々の地獄に堕ちるメタファーとしての情交シーンのほかに共通点として「ホームレスが不穏な存在」「絶大な権力をもつ金持ち」「2人の女の死体」「テンガロンハットの男」がキラーインサイドミーにもマルホランドドライブにもでてくるんよね。なぜですか。
災害がすべてをさらってく予感…この映画みてる最中と観終えたあとに今までにない充実感を味わった。わりと分厚い好みの小説を一字一句余さずたんのうしきって読み終えたような満たされ感があった。ブンガクっぽかった。人生のわりとどうにもならない感と、突然台無しにされたり唐突にうまくいったりする呆然とした感覚がちゃんと描かれてるって思った。主人公の友達(親戚かなんかだっけ?)のデブでホモのおじさんが夜中のプールサイドで泣くところはここ10年くらいの映画のなかでいちばんの名シーンだった。すごい泣いた。心が痛かった。そういうふうにしか生きられないんだといって悶絶しながら泣くところはアンチクライストの奥さんとまるで同じだと感じた。
西洋人の考える優しさの限界点…欧米の「常識」は社会的な制約のいっさいをとっぱらった心の奥底に巣食うモノに向き合うとなにもできなくなってしまうんだなーと思った。それについて真っ正面から描いたってのはすごいことだと思う。東洋で育った人間にはできないし、西洋で育った人間がやるにはそうとうの勇気がいったと思う。
革新的な発想はキチガイ紙一重…キラーインサイドミーのルーフォードじゃないけど、真に斬新なモノに出くわして話がいっさい通じないときにヒトはただただ呆然となるということが重々確認できます。これが見世物の醍醐味です。どっからどう考えてもムダなことに大喜びしてる向きは全員そのケがあります。要注意。
どうでもいいキャラ大暴れ…マークウォルバーグが眉間に縦皺2本立てながら超深刻なツラでちょっと頭おかしいレベルで怒りっぽいキャラを全力で演じるのを鑑賞するのだけでも必見。これでもかとキャラたちにネタ的な性質をぶちこみまくってまあ作為はみえるんだがみょうに濃厚で、多少バランスとれてなくてもぜんぜん大満足。
ニコラスケイジの悪魔がらみ…悪魔がらみでグラインドハウスっていうだけで高得点。このテの作品がワイルドスピードみたいな宣伝されたのが残念でならん。ドライブアングリーの死神役のフィクトナーみてて思ったんだけど、アメリカ映画のなかでよく描かれる天使や悪魔といった、地上に降り立った人外の者とくゆうの超然とした雰囲気つーの?人をまったく怖がらずに冷血に命を奪うサイコパス感まるだしにしたキャラクタってさ、なんかデイヴィッド・リンチ映画に出てくる怖いキャラクタのなりふりとすごく似てるかんじがする。
気にしないという選択肢…いまの日本の表向きの標語じみたアレで「努力すればどんな夢でもかなう」みたいのがあるけど、そういう考えの下ない才能をあるものとして間違った方向に全力投球してる人にさんざん罵声や物をぶつけてひっこます場面をみるだけで元は取れた。
家族という愛と十字架…恋人がイチャついているところへ彼氏側のねーちゃん数人がケンカごしで押し掛けてくるっていうね。地獄は身近にあるなって思った。
戦うカタルシスのお手本…ドニーとサモハンの一騎打ち燃えたわー。小学生のころ胸熱くして読んでた少年ジャンプ掲載の男臭いアクション漫画思い出したわ。
仕事がないならつくっちまえ…作家稼業の人間が危ない橋を渡る作品はたいてい面白いんよね。今作は巨大な権力もった男相手だしつまらんわけがないよ。リチャードギアは一時期まで恋愛がらみの作品でヤサ男役ばっかしやってたけど、去年かなんかやった退職まぢかの警官役やってから一風かわった男くささのある映画にでるようになって好感触。

 

なんとなしに忘れてるモノがあるやもしれませんがだいたいこんなです。
 

よくやった映画2011
・人生ここにあり
実話ってのがすばらしい。「障害があるから仕事なんかできないだろう」みたいな思い込みがすべて可能性を潰すのだと思った。どんなヒトであろうとちゃんと備わっているモノがある。
ファンタスティックMr.FOX
名作といわれる児童文学の映画化でも宣伝方法をまちがえると潜在客にとどかずに公開終わっちゃうのが悲しい。みれてよかった。障害者だから、みたいな見方とおなじく絵本は子供のもんだから、みたいな頭ごなしの決めつけでいるとおもしろいもんを見逃してしまうので要注意ですよ。絵本の世界で数十年読み継がれてる作品てわりにシビアな内容だったりすんのよ。
 
おりものくさい2011
ブラックスワン
 
刺さった言葉2011
「ゴミおせち」「殺人ユッケ」
まさかゴミとおせちとか殺人とユッケがつながる日がこようとは!!ムカデ人間的ですね。    
 
総評というか、まるで管理国家のようなあたりさわりのなさすぎるCMを大災害の直後に延々と見せられたことがわりとショックだったのと、あとアンチクライスト公開中時にツイッターアンチクライストの感想つぶやいてたヒトたちがしぜんと自分のなかにしまわれていた面白おかしい記憶をぶちまけていたのがすごく興味深かった。うんこもれたスレじゃないけど、やりとりをみているうちになぜか自分のなかに蓄積されてきたブツをぶちまけずにいられないきもちにしぜんとさせられてしまう作品てのは優れてるといっていいんじゃないかと思う。べつに引き出す目的でつくったわけじゃないのに、いざみせてみるともりもりだすきっかけとなってしまうという。どういうことなんだろうか。内側に備わっているモノを引き出すがらみでは上記で出したイタリアの精神病院解体映画とか、昨日書いた英国王のスピーチなんかも思い当たるけど、頭ごなしに叱りつけてなにかや誰かをだめにしてしまったことのあるヒトはこの2作品やアンチクライストをみて人の内側のモノを引き出すしくみについて考えたらいいのでは。ところでジャッカス3Dて今年でしたっけ?だったらムカデ人間と同率4位ということで処理しといてください。
あそうそう、あと夫人に強制連行されてフランス映画のおもしろさに触れられたのがなんかよかったかな。自分だけの判断だったらぜったいにみなかった作品ばかりだったし。マンドクサい性質の友達はわりとためになったりすることもあるんだなあとしみじみ思いました。