ワイルドだろう?とそうでないモノ

面白かった映画2012
 1.ザ・ウーマン
 2.ヘッドハント
 3.ヘッドハンター
 4.ウェイバック
 5.ヒューゴの不思議な発明
 6.最強のふたり
 7.籠の中の乙女
 8. 思秋期/ゴッド・ブレス・アメリカ
 9. 闇を生きる男
 10. ザ・レイド

ケッチャムのアメリカン山の神…人間社会に於いて「男」性をふりかざす快楽を知ってしまった男が、森でみつけた野生の女を捕獲&監禁&調教していくうちに「男」ふりかざしのたがが外れてって暴君になったと同時に野生の女から真の男女平等を教え込まれる、という野生の掟の厳しさが描かれててよかった。暴君と化す一家の主が「男ではない者」を痛めつけることに快楽を見出しているのに対して、野生の女は群れの存続を第一義としていて、群れに仇なす者からえじきにしていくんよね。備わったちからの強さだけで生きてくこと=野生を極めると「群れを守ることに長けた者」が最強の者ということになる、つーことなのかな。なにしろDV程度で満足してる輩は野生の者にはかなわないのだ、という真実がみられてよかったです。野生で生きる者からすると「文明社会で暮らしてる者」には隙がありすぎる、というくだりはスラッシャー映画とかホラー映画でよく描かれるんだけど、今作のような直接描写のある映画を最近みてなかったんで癒された。「差し出した手の指をいきなり喰いちぎる」なんて文明社会で暮らすもんにはまず思いつかないしとっさにできないもんな。監禁されてた野生の女のくびきをはずすのが家庭内でいちばん虐げられていた女だった、てのもなんかよかった。ちからで非道な目に遭わされてきたがゆえに、どのちからを解き放てば良いかよくよくわかっていたということだろうか。オアさんがヤクザ映画の高倉健のようだと書いてたけど、あの腐った男どものいるところの戸をウーマンが開けるとこはシビレますな。悪魔のいけにえの閉めるとこもだけど、その作品内でいちばん凶悪なキャラクタが現れるときはノブ付きのドアじゃダメなんすよね。引き戸を乱暴に開けたり閉めたりすんのがなぜかいちばん引き立つ。どういうわけだろうか。あと、ウーマンはもし日本の山奥にいたら地元の村のヒトからふつうに人身御供捧げられて祀られてたりすると思う。群れが腐ったらもう山の神にきてもらうしかないんだろうか。
ブラック会社の社長は今日もサイコパス…生まれつきではない後づけとはいえサイコパスに好き勝手運営さした会社内の様子を観察するという、その時点でもう高得点すぎる。まさに眼福。人間とはかけ離れた姿形のモノをみるのがなんで見世物になるかつーと自分らとは全然ちがう生活様式が珍しいからで、サイコパスてのは外側こそ人間そのものなのに、嗜好がそこらのヒトビトとはかけ離れてるわけですよ。誰に影響されたんでもない(影響されてそうなってる場合もあるけど)、自分自身の快楽を満たしたくてやってるだけだから、そこらのヒトが理解しがたいような行動を繰り出す=珍しいもんみたさの見世物なわけです。今作のサイコパスであるレッドさんの奇異行動といえば懲罰で切り取った社員の身体の一部を事務用引き出し(しかも同じ段)になんでもかんでもほうりこむあたりですかね。あれはロボトミー前の常人だったときからの癖なのか、それともロボトミー後の快楽が関係してるのか。サイコパスによくみられるという「頭がいい」「きれい好き」みたいな性質もちゃんと盛り込まれててなんかいろいろ満足。
ちいさいおっさん暴れまわる…高級とり&美人嫁持ち&趣味で芸術強盗という勝ち組主人公っぷりをみせつけたところで強力なライバルにむしり取られ蹴落とされ実は勝ち組でもなんでもなかった…そして奴に復讐だッー!!みたいな流れがすっげえ巧かった。娯楽映画とはこのことだ。こういうのこそマリオン上あたりのでっかいスクリーンでみれたら最高なのになあ。スジももちろんなんだけど、配役も絶妙だった。北欧映画がんばってるねえ。どうしてデカい劇場でかからないんだろうか。
地獄を踏破しました…原作本のアマゾン客評で直接の体験談ではなく伝聞の脚色だろうというようなことが書かれてましたが、こういう面白いもんが創作でもそうそうできるわけではないので原作出自がどうであろうといいよ。基本的につくったもんがおもしろけりゃ万事それでいい。なんつーかな…(検証が難しいたぐいの)信じがたいような出来事が発生するとこじつけの否定がまずでるんだよな。大本教の源になった出口なおさんのおなかに艮の神様が入ってから自動筆記がはじまった件について、出口家に精神異常者が多かったからなおさんも発狂したのだろうと巷でいわれてたらしいんだが、なおさんは精神病むようなヤワなヒトじゃないと思うよ。なぜなら精神病んでるヒトは自分の心根をゆらがすことなく暴君の世話しつづけたりできないから。相手に流されない強靭さと心根の強さ、柔軟さ、優しさを兼ね備えていたから器としてふさわしかったんだと思う。その後になおさんレベルのヒトが出て神様が入るなら教団として続ける意味もあると思うが、そうゆうヒトいないのに続けるのもどうなのかねえ…(「艮の金神」や「お筆先」の意味を解説し、これを世間に認めさせてくれる人物を切望したといいますて書いてあるから団体化するのが必要だったのか。というか身体に入った神様にそうしろとせっつかれたんだろうな)。まあそれは置いとくとして、ウェイバックの場合はあの道程を同じくたどってみたヒトが「絶対無理」的な結論をだしたらしいけど、そのヒトは当事者と同じ(なにがどうあってもやりとおす的な)心理状態や執着を持っていないから、それは道程こそ同じであれ真に同じではないんですよ。そういう意味で完全に同じ道程はだれにもたどれないはずなんだよな。作品としてはキャラクタがバラエティ豊かでよかったですよ。枯れかけていながらしぶとい生命力をみせる老いアメリカ兵役のエドハリスもいいし、あとあのロシア人のチンピラ愛国者!いいねえああいうの。
時代の終幕と幕開けと…いつも関わってるモノの時代を絵巻としてみせられたので恍惚としました。ガラクタとお宝の線引きてのはほんのちょっとしたもんなんだよなあ。ずば抜けて素晴らしいモノだとしても、時代がソッポむくと制作した当事者ですらその自信が霧散してしまうんだよな。いまや人類の宝とされるゴッホの絵ですらリアルタイムではまともに評価できる人間が実際にはひとにぎりしかいないんですよ。存命中に適所へ届かすことのたいせつさ。評価の定まらないモノをたいせつに長期間とっておくことのむつかしさ。物と人の運命の残酷さとかいろいろ考えた。
最上のサービスはダチ付き合い…他者と深く関わることのいちばんむずかしいところは「怒るべきときに怒る」と「許せないところを許す」をしかるべきときにできるかどうかなんですよね。家族だとしてしまいがちな依存は「親友」にはしちゃいかんし、なんというかお互いが「対等」を保とうとする関係のことなのかなと思う。ベタベタしたお涙頂戴に仕立てあげて稼げればそれでいいとしがちな日本映画にはできないだろうな。そんなもん求めてない、と思ってる良心的な観客がこの映画に殺到したんではないのか。
お父さんは壊れてしまった… 男が「男」性にこだわりすぎた挙げ句に閉じた王国で支配者としてふるまうありさまをリアルに描いてて身震い。完全に情報を遮断して異世界をつくりあげて維持しつづけるって、そうとうな狂気ですよ。あれは形のちがう家庭内暴力だと思う。ザ・ウーマンのDV父とはまたべつの歪んだベクトルで家庭内を支配していて、その異常支配を支えてる(=壊れた世界観を維持してしまう)のは妻である、というあたりもザ・ウーマンと似ている。同罪なんだよな。そこから出たいがゆえに、親から与えられた物語(外部への興味を子供に持たせないようにするためにデッチあげられた適当話)の試練を乗り越えようと捨て身になる子供のありさまがままお伽話の類型のようにみえておおっと思った。ヒトの心を完全に支配することなどできないんですな。
老年の心理更新の難易度/死の絆アメリカン…ヒトが嫌いなら関わらなきゃいいのに、ヒトを傷つけたり殺したりしないと気が済まないヒトたちの生き様。両方ともがすごく狭い世界観でゆっくりと醸成された狂気の出どころにたどりついた瞬間を描いてるかんじ。
男をなくした男の袋小路…ただでさえ不器用な男性をさらに逃げ場のない状況へ追い込まして生かさす神…。こうまでなったらもう便宜を図ってあげてくださいよ…。誰も文句いいませんよ…。
インドネシアってー!!…こんなにも殺人技が発達したヒトたちがふつうに俳優やってるインドネシアどうなってんだ。これからもイカス血みどろ映画おねがいします。


 
 
上半期は小説カキ中でみれなかったもんが多かったアレなのでだいたいこんなです。


 
イイ仕事してる2012
カリフォルニアドールズ
アルドリッチの女子プロ映画を劇場でお客さんたちとみれたのが幸せでした。傑作て「おもしろい」「つまらない」以外の感想がたくさんでるんだよなー。ツイッタで感想検索してバラエティに富んだモノがたくさんでるときは十中八九傑作です。山師であることは見世物において重要な要素なのだ、ということをベテランから諭された気持ちになった。
・眠れぬ夜の仕事図鑑
ゲイルハルターさんのドキュメンタリーがすきなので。音のソノリティ的な淡々とさしだしてきてくれるのが好きだ。感想はこちらにまかしてくれるから。現代美術みるときと同じノリ。ほったらかしてくれてると俄然やる気になる。でもねた。
ピナ・バウシュ
「異質な他者」の心のなかを踊りで表現できるのだな、と思った。パウルクレーとかの抽象画みたいだと思った。生活上ではだれもが同じ事をやって暮らしているものの、心のなかを言葉以外で表現するとたちまち異星人かと思うくらいの理解不能ありさまが繰り広げられてちょっとこわい。
 

もういっかいみたい2012
ディクテーターだいぶ寝ちゃったんでちゃんとみなおしたい。あとでみたヒトのツイッタよんだら観どころ満載だったもようなので。つーかノーカットで民放でやればいいのに。そうしてくれれば万事おさまるんだ。

 
 
総評というか、シアターNがなくなってどうしたらいいんだろう。ケッチャムの映画みたいのかけてくれる館あるんだろうか。血みどろだからといって上映しないという早計には陥らないでもらいたいです。金持ちだったら機材くらい寄付するのに…。あ、でもあくまで彼らで儲けをあげてまわしていけるかどうかってのがだいじなのか。うーん…。

 
年末にみたけど書かなかったもんの感想、手短かにまとめてかくかも。