ジェームズクロムウェルってえらいひとの役ばっかしやってますな

昨日はダニエル悪魔の赤ちゃん(シネパトス)→ブッシュ(スバル座)→消されたヘッドライン(スカラ座)で、消されたヘッドラインて題からしてお上の圧力で民間の何かが潰される系統のアレなのかなーと思いきや、主人公が記者魂を貫くために自ら納得いかん記事をボツるって意味のほうのものなのですね。スジとしては民間と銘打って健全経営してるはずの軍事仕事請け負い会社が実は政府からのお仕事を(複数の架空会社をつくってさも他人の会社と競合してるかのように偽装した上で)独占してガッポリウハウハしてんじゃないの疑惑の究明をしてる議員がいて、その公聴会を直前にひかえてた究明議員の片腕の女性がいきなり電車に轢かれて死ぬ。あやしさ満点の死なもののその時にはまだ死の確たる証拠もなく、おまけに公聴会中にその女性の死を公表するとともに哀悼の意を示そうとした議員がとつぜん涙を流しはじめたもんでこれは痴情のもつれじゃない!とばかりに報道機関はそっちの話題ばかりとりあげて大騒ぎになってるさなか、路地裏である殺人がおきる。死んだのは黒人の麻薬の売人で、同時にその現場で撃たれて瀕死となってるピザの配達人もいた。なぜ通りがかりとしか思えない配達人まで撃つ必要があったのか。場数を踏みしめ尽くしたベテランならではのナチュラルな強引さで被害者身辺を事件担当したラッセルが調べると、売人の携帯電話に軍事会社究明議員の片腕だった女性の電話番号への通話記録が残されていることに気づき、背後にあるヤバいものの糸口がみえはじめたとき、死んだ売人の彼女だったホームレスが売人の盗んだ鞄にはいっていたものについて買い取りを持ちかけてくる、というもので、ちょっといろいろ入り組んだ話がどんどんたたみかけてくるもんであらためてパンフでスジ確認しながらのアレなんですけど、とにかく死んだ女性はいろいろたいへんな人生を送ってきてて、ようやくおいしい仕事にありつけたと思ってやってみたら思いも寄らない男女のアヤにぶつかって絡めとられてしまったまま不遇の最期を迎えてしまったというかわいそうな人なんですが、それもこれも突き詰めると付き合った相手の男がもともとどうしようもなかった、という結論です。ラッセルクロウは大手新聞社の記者なんですけど、自分の勘を信じて真相を掘り出すまでは小手先のネタはぜったい取り上げないというスタンスのため、真相までの道すがらでたくさん出てくる小ネタを他社にどんどんすっぱ抜かれて売り上げをたびたび持っていかれてしまい、とにかく売り上げ至上主義の女編集長(エリザベス2世役やったおばさん)が何やってんじゃゴルァ!!!とかたびたびヒステリーを起こします。クロウとしては凡百の小ネタを載せることなど真相(を掲載すること)にくらべたら何の意味もなさないことをよくわかっていて、だからこそ目先の売り上げなんかに惑わされずに腰を据えてじっくり信じたほうを掘り出そうとしてるんでしょうけど、でもそれはある程度フトコロ具合に余裕がある会社ならゆるしてもらえるんでしょうが、ネッツにお鉢を奪われかかってる昨今のギリギリの日銭稼ぎな売り上げの状態でその手法をやるのは経営者としては寿命が縮む思いなのだろーなと思いました。クロウの信じるようにやらせたいという思いと、でもそれ許してたら会社たちゆかないしという算盤的なあせりに追い立てられたら誰だってヒステリックになるだろうし。でもそのいろんな労苦が報われるラストの光景がすごくよかった。たいていハリウッドの政治だのビジネスサスペンスものって悪が裁かれましたーおしまい。とか一件落着して女とベッタリなる光景で終わるものですけど、今作は仕事に人生を捧げた野郎どもだけが味わえる充実感にあふれた爽やかな終わりかたなところがたいへんよかった。あの瞬間のために仕事をしてるんだな、というのがすごい伝わってきた。それはただ新聞が大量に刷られていくだけの場面なんですけど、誠実な仕事をしたからこその思い入れがハンパないだけあって、その充実感を知ってなおかつそれを踏襲してゆくことの積み重ねで信用というものができていくものなのだなとしみじみ思いました。女編集長と若手女子記者のちょっとした軋轢の場面もなんかリアルでよかった。ベテラン仕事人の女の人ってああいうかんじですよ。まあ身近でひとりしかみてないけど。
えーとブッシュはバイトもろくろく続けられないボンクラ息子が、実家の権力で名門校から最高権力の座にまで成り上がった挙げ句自国を地獄状態にした人の話。おとうさんへの愛憎もまあ軸にはあるようですけど、それより大統領仕事の際になんにつけても俺のいうことが聞けないのか!俺がぜんぶ決めるんだ!!とか言いはって側近の助言すら「俺に逆らってる」とか認識するありさまで、周囲の優秀であろう人たちがどんどんブッシュ色に染められてバカになってゆくありさまがよかった。福音派(ブッシュと同レベルバカの集団)の後押しとはいえ人の意見すらまともに聞けない奴が国の采配ふるうポジションについちゃうってすごいことだなあ。グラディエーターホアキンフェニックスがやってたボンクラ息子もそうでしたけど、もともとリーダー役の素質をもってない人がその座につくと表層だけそれらしくまねようとして「優れたリーダーはぜんぶ自分で決める」「権力者は好き勝手できる」とか思い込んで暴君になりがちっぽいんだよな。なんか「権力者の息子として生まれたのにその素質がない(けど無理矢理同じことやろうとして自滅する)」キャラな人って「何をやっても長続きせず酒場でのんだくれて場末で女孕ます」みたいな人生パターンになりがちな場合が多い気が。ダグラスサーク映画の石油長者の息子とか。そういえば消されたヘッドラインに出てくる黒い民間軍事会社はそもそもブッシュのおこした戦争が原因でできたものらしいんですが、リーダー素質のない人間によってつけられた爪痕が色んな方面で根深く残り続けちゃってたちが悪いものですな。
ダニエル悪魔の赤ちゃんは母となる女優さんが陰がない感じのギャルっぽい人なんで悲惨さも8割減進行でちょっと台無しだった。もっと病的にやつれさせたらよかったのでは。つうか演技力がないのか。親友や警官が食い殺されたというのにさして悲しんでるふうでもないし。気晴らしに着飾ったときと赤ん坊にかかずらっているときの見た目の落差がないから苦しんでるふうにみえないんだよなあ。あとかなり後半まで夫が赤ん坊が悪魔なことにさっぱり気づかないのもなんだかなー。奥さんの乳首が傷だらけなんだからセックスさす展開なら気がつく演出しないと逆に不自然だろ。肝心の悪魔の赤ちゃんがあまり映されないのも不満。劇中であきらかに赤ん坊以外の無機物をくるんでるモノを抱いてるとしか思えないとことか、あと警官が走行中の車中で無線のやりとりをしてるシーンが右からのショットしか映されなくて、あれバックに走行風映像を流して箱のなかで撮ってるやつなんでしょ。まーそこらへんの経費浮かせは百歩ゆずるとしてもやはり肝心の赤ちゃんが全然映らないのもアレだし、なによりチラッと映ってもCGまるだしですっげえ興ざめ。やっぱ気持ち悪い味わいのものほど手作りでなければいけないですね。こんならマスターズオブホラー観てたほうが10倍マシです。つくりの上での投げやりさがひどい。客を楽しませることより経費浮かせるほうにご執心の人がつくってたもののようにみえます。
追記(5/26)。ちょっといろいろ手直ししました。