日本映画でたのしんだのひさびさですよ

『—最近、高校生とかヤンキーとか、若者の暴力を扱った映画がたくさんあるけれど、どれも暴力の描写が中途半端なんですよ。カッコつけるしね。こんなことしたら死んでるよなっていうようなやつが、次のシーンではちょっとアザできてるだけだったりしてね。そういうのは駄目でしょって思うんです。ブルース・リージャッキー・チェンはいいですよ。彼らは常人には及びのつかない身体能力を持っていて、だからこそエンターテインメントたり得ている。でも、そうじゃないリアルなものをつくってるふりして、いい加減なことするなよって。ゲームの悪影響を云々する人もいますけど、僕は実写の影響力のほうがよっぽど怖いと思うんです。』

アウトレイジ(20日。渋谷東急)→ハロウィン2(シアターN)→四匹の蝿(えぬ)→ぶっつけ本番(21日。神保町シアター)とみまして、上記『』内はアウトレイジパンフの三浦友和さん談から抜粋したモノ。アウトレイジは映画前宣伝とかテレCMとかでヤクザ役らしきヒトたちがやたらにスゴむとこばっかつないでたんでちょっとやりすぎ感あふれてて不安だったんですけど、実際みてみたらごく自然な演出で安心した。つーかどのキャラも配役がおそろしくピッタシでさすがたけしさん!!とか感嘆しきりだった反面、こういう「プロのいい仕事」がふつうにこなせるのがポンニ映画業界のなかでたけしさんだけってことなの…?とか暗澹たるきもちに。このクオリティが「できて当たり前」がプロの世界なんじゃないの…?もう三浦さん談じゃないけどさー昨今の安上がりな三文映画で大儲けしてる連中って純愛病死映画とかさんざん人の死で商売してるくせに、いざ死を伴うような暴力描写させるとリアルなものがさっぱりできなくて見た子供に誤解抱かすようなスカスカの「現実」を植え付けるしかできてねえのな。なにが「ひどい」か理解できてるからこそ手加減もできるっつーのに。暴力をみさせないんじゃどういうことが「手加減」で「優しさ」なのか判別することもできやしねえ。ガキにひどいもんをみせないのが教育だあ?そういう連中のガキは殺人とケンカの区別もできねえマヌケに育つだろうよ。アウトレイジにでてくる組じゃあパシリもろくにこなせないだろうね。スジとしてはヤクザの総ボス(北村総一朗)から出される「仕事」を下の組織が忠実にこなすも、実は総ボスには裏の思惑があって容赦なく切り捨てにされたり「仕事」の私怨から思わぬ反撃にあったりと、暴力でのしあがってきた野郎共が駆逐したりされたりするヤクザもんの生き様絵巻的なお話。暴力団の物語なんで誇張(ライバルを蹴落とす=ライバルを殺す)はされてますけど、大まかにはどの社会の方もすくなからず身に覚えのあるようなおしごと風景にも思えます。ヤクザもんて呼ばれたことのある業界の方はこれがふつうなんだろうなあ。北村総一朗が総大将で傘下にはたけし・國村隼石橋蓮司をそれぞれ長とする組があって、組長の個性が下っ端にも反映されててそのまま組の個性になってるとこが面白かった。たけし率いる組(一応主人公格)は暴力と頭脳をうまく使いこなした上で情もちゃんともってるという昔ながらのヤクザだし、國村隼は「杯の契り」すらも簡単にエサに使っちゃうような世渡り上手の日和見ゴマすり野郎(手下の杉本哲太は総大将の性質を受け継ぎそうになる)だし、石橋蓮司はヤクザのくせに相手の言動を全部ストレートに受け取っちゃう天然な組長なもんで、蓮司自身はおろか下っ端も万年ヒドイ目に遭わされっぱなしになる悲惨な役回りです。ヤクザさんは相手がつけ込めそうな奴だとみなすやあのテこのテで言いくるめた上引き返せないところまで沈めてしまう業種の方ですが、イケそうだとみなすや身内だろうと友達だろうとやってしまうあたり鬼畜です。石橋蓮司がその対象にされて北村総一朗経由で國村隼から無理難題を押し付けられるたんびに激怒するものの、まあまあこれやったら杯くれるっていうからさ…みたいにエサをちらつかされて要求をのんでくうちに非道な仕打ちもエスカレートしてって挙げ句、歯医者で治療中にキュイーンていうアレで口内をグジャグジャにされて、事実上クチ封じされた状態で蓮司の組のシマが自動的に國村隼の組にまんまと吸収されちゃったりする。その実行役にはたけし率いる組(つーかたけし自身)がやらされるんですが、北村総一朗はたけしの組ですらも難癖つけて我が物にしようとし…みたいな展開。北村総一朗の直属として三浦友和がついてるんですが、身内をゴミ扱いする北村総一朗のガハハオヤジっぷりに内心はらわた煮えくりかってるわけです。それぞれの組だいじにしてやりゃ栄えてくだろうに、いつまでたってもポジションに見合った広い度量をもてず、統率者となってもまだ若頭のようながむしゃらな強欲さをフル発揮して自分で自分の首しめてる。この北村総一朗がお気に入りなのが國村隼の組の杉本哲太で、なんか北村総一朗的な心証をしてるとこを三浦友和が見抜いて苦々しく思ってると。大スジはこんなですが、それより個々の役柄のキャラ立ちが激しくてそこが1番のみどころですわよ。なんとなく各俳優に対して感じてるイメージがあますところなく表現されていてものすごい溜飲が下がった。あたりまえだけど俳優さんて監督さんによって活かしも殺しもされますね!アウトレイジみるとそれをひしひしと感じる。ふてぶてしくシレっとした北村総一朗をはじめとして、優秀なのにいつまでたっても頂点になれない明智光秀的な三浦友和、仕事は忠実にこなすけど単なるロボット的な精神的線の細さのみえる杉本哲太、直情的であまり頭のまわらないチンピラ中野英雄、ヤクザから袖の下もらってうまいこと立ち回るずる賢い刑事の小日向文世、どのヒトもハマってて申しぶんない。たけし率いる組は若頭が椎名桔平(中野英雄と共に常々ヤクザっぽいと思ってた)なんですが、相手によって暴力や脅しの度合いを使い分ける脂ののったベテランヤクザっぷりが色気があってたいへんよろしいですし、流暢な英語をしゃべるインテリヤクザ(オタクの方はここらへんまでいけるとかっこいいね。)の加瀬亮さんも見直しました。あと各役柄の死に様もキャラに付随するかのようにすごく似合ってた。服みたいに死に様も各人で合う合わないがあるんだな。そのひとにいちばんふさわしい死にかたっつうか。かっこいい役はまあいいですけど、情けない役をどれだけ真に迫ってできるかで演技力けっこう問われる気がする。ナニがいいたいかというといつもながら石橋蓮司プロすぎる。あのヒトはシリアスな侍の役とかやるとかっこいいんですよ?マジで。ヤクザ映画でるとなぜかお笑い担当な事が多くてファンとしては泣けてくるよ…。あとおんなは全員ただの添え物です。

ハロウィン2は前作から引き続きおにいちゃんが生き返って殺しはじめて妹がキャーキャーするアレ。ゾンビさんは「家族」にこだわるねえ。そういうイミではデヴィルズリジェクトが1番輝いてるな。

四匹の蝿は主人公の演奏家の青年が、最近やたらつきまとってきてるおっさんを問いつめたらはずみで殺してしまって、その現場を何者かに激写されて以来、みょうな現象が起き始めてテンパッた青年が各方面に助けを打診するも周囲で殺人が止まらず悩んでいたあるとき、被害者の眼球の網膜に映った最後の映像をうつしだす機械によってあらわれたモノがヒントになって真犯人を追いつめる話。最初と最後が衝撃的で、中盤は物語に関係ない性質のキャラが水をさす形になって中だるみ感あふれて超タルいですし、肝心の物語の転換点がファンタジースレスレの超常現象的な事物だったりとか、ダリオアルジェントってこの当時から基本的にぜんぜん変わっていないんだなあと思いました。