この人はこうするしかなかったんだな

高地戦(11日。シネマート新宿)→思秋期(武蔵野館)→アウトレイジビヨンド(バルト9)→388とみまして、思秋期は大事な存在を傷つけてしまうほどの怒りに始終駆られていて、自分でもどうにもならないところでさらに暴力行為に及んでしまって絶望しかかってる初老男性ジョセフが、ある日なんとなく飛び込んだ店で商品の服の陰に隠れてたところ、そこの店員の中年おばさんハンナの博愛的なことばに泣かされて以降なんとなく関わってくふうになる話。ジョセフはその性分(つーか病気か)のために過去たいせつな人を失っていて、それを悔やんでいるはずにも関わらず衝動的に暴力をふるうことをいまだにやめられず、そんな自分に疲れきっている。服屋のハンナは熱心なクリスちゃんらしくてなにかつーとゆるしますとかあいしますとか言うんだけど、それを言うことを至上としすぎるがゆえに本音をずっと言えずにいて、その結果として自分の夫の鬼畜な性質を増長さしちゃってんだよな。この夫がまた気色悪くてさ、帰宅してハンナを呼んでも来ないもんで、わざわざ寝てる(フリしてる)ハンナのとこまでいって無言で小便浴びせかけるんよね。あ…この夫婦壊れてるんだな…て1発でわかる良い演出だった。なにも暴行や大げんかなんかしなくとも崩壊が直でわかる。んでまあこの旦那がハンナに暴力をふるうわりに尾行してストーカーまがいのことしでかすし、ハンナがこの旦那とセックスしたがらないのも過去にひでえことされたからなんだよな(ということを旦那自身がわかってないのがまた鬼畜。ハンナがヤらせないのは自分をバカにしてるからだとか、自分のことだけ考えるので手一杯な単細胞)。もうハンナはこの旦那を吐き気がするほど毛嫌いしてるってのに、暴行のあと旦那が平謝りしてくると「ゆるすわ」「あいしてる」とか心にもない言葉を投げかけて旦那の背中をさすりはじめるんだよね。嘘はだめなんだろクリスちゃんは。なんでこうクリスちゃんは平気で矛盾するんだろうか。なんかその…ツイッタでもちょっと前に書いたけど、あの耳障りのいい言動を至上としすぎで本音や本質(多くは彼ら自身によって「耳障りの悪いもの」と決めつけられた言動)についてビタ1文話すことができない偽善者感がカソリック教会の信者に染み付いててさ。すんげえ気色悪い。キリスト当人がそんなの望んだかねえ。思秋期にもどしますけど、ハンナが旦那から手ひどく暴行&強姦されたのでジョセフのとこに逃げ込んでくるんですけど、ふつうはその傷のある状態のまま警察か病院にいけばしぜんとDVの証拠として採用されるし、離婚時に有利になるからまずソッチにいくべきじゃん。でもハンナはいきたがらないんだよね。荷物とりにいこう、てジョセフがゆってもハンナはやたら怖がって引き返しちゃうんだよ。そこらへんはジョセフが旦那のいる家に踏み込むと判明するんだが、被害者と加害者はどっちがいつ逆転してもふしぎじゃないのだなーと思った。ぜんぶさらけだして、それでもすきだと思えるかどうかなんですな。ハンナはまあ昔っからクリスちゃんのキレイ言動一辺倒ですごしてきたいいこちゃん人生だったんだろうが、ジョセフはなんかダチ(2chスレにでるような差別書き込みぽいセリフをサラッと並べ立ててた)からしてもおそらくギャングちっくでワルぶった生き様してきたんだろうね。ちょっとメンチきられたらすごんでケンカ、クチ開けば相手の欠点あげつらったりして。そうやってすごしてたらいつのまにか体だけがヨボヨボして、まわりにはだれもいなくなっていた。ジョセフのダチがもう虫の息で寝たきりなんですけど、世話してる娘さんからめちゃくちゃ冷たくあしらわれてるんだよね。そのヒトだけじゃなくダチのジョセフまでも忌み嫌われてるの。おそらく日常的にそうとうヒドイことばっかやらかしてたんでしょうね。若い頃は。それをしらないヒトがあの娘さんの冷たいなりふりをみると娘さんひでえと思うだろうけど、そうさせたのはあの寝たきりの爺さんなんだよたぶん。でもその後の葬式シーンで娘さん号泣してんだよな。この映画は不器用なまま老いてどうにもならなくなった切なさをずっと描いているんだけども、あのお葬式後の飲み屋でのシーンとラストだけがしみじみとおだやかなここちになる。あの飲み屋のシーンはなんかリアルだよ。性質に問題のある相手、特にそれが親族だった場合、そのヒトを世話しなくてはならなかったヒトの複雑な想いたるや…。憎しみだけではないんだよね。ひどいことであれ楽しいことであれ「心を動かされる」というのは迷惑であり喜びでもあり、なにかひとことではいえない。
高地戦は朝鮮戦争末期に韓国と北朝鮮の境界線あたりの高地で繰り広げられた激戦の話なんですけど、そこで戦い続けてる韓国側のワニ中隊の死者の体から自国軍の弾丸がでてきたもんで、諜報部(だっけ)で自国の反逆者処刑に嫌気さしてたウンピョさんが内部調査のためにワニ中隊のいる高地へ向かわされる。ワニ中隊てのは「ワニは育つまではガンガン餌食になるけど、無事育ちきった数少ないワニそれぞれが巨大な力をもってる」みたいな意味でつけられたらしくて、まあなんつーか…死が前提の隊なんですな。いざ高地にいってみるとワニ中隊は寒さしのぎに北朝鮮の軍服なんか着ちゃってのんべんだらりと暮らしていて、大尉はハタチなりたての若造(この役者さんイイすねえ。心や体の痛みに耐えるために始終ヤク打ってやり過ごしてんだよな)だし、いつのだかわからん話をくりかえす頭おかしいヒトはいるし、そのありさまを目にした小太りの新隊長(ウンピョさんといっしょにきた)が怒鳴りちらすものの、ワニ中隊のなかに戦争初期にウンピョさんと同行していた怖がりのメガネ青年(スヒョク)がいて、そのスヒョクがどういうわけか当時とは真逆の頑強そうな兵士となっていることにウンピョさんはびっくりする。スヒョクは高地での激戦をくぐりぬけてそうなったんですけど、今回きた新隊長がムチャな作戦命令をだしはじめて、長い事戦ってきた若き大尉やスヒョクさんの反対も聞かずにその作戦を実行してどんどんヒドイことになってゆく。そんな中でもスヒョクさんは戦火に率先して突っ込んでくし、敵対してるはずの北朝鮮兵士とも微妙に内通してるふうだし、内務調査しにきたウンピョさんとしてはスヒョクさんを疑念の目でしかみられないふうになってゆく。その後は敵軍の凄腕狙撃手との攻防とか米軍機による爆撃なんかがあって、中共の軍隊が押し寄せてきてもう韓国側も北朝鮮側もどちらもがボロボロの状態になってくんですけど、そこで突如として停戦のしらせがとどいて双方が喜びにわくんですが、その協定が成立するまでまだ数時間あるもんで双方の軍の上層部が「時間になるまで陣地を力ずくで押し広げろ」てお達しをだしてさ…。もう兵士たちはそれぞれ友好ムードだったっつーのに、またお互いを惨殺しあいにいくんですよね。クライマックスの霧がたちこめた高地に潜んだ双方の兵士たちが同じ歌をうたって、霧が晴れたのちに互いを殺し始めて高地じゅうに死体が散らばりゆくあのくだりは悲しかったですね…。同じ歌をうたうほどに想いは同じだったんなら、もう互いに「戦わない」ということで時間まで手をとりあうことはできなかっただろうか…。兵士つーのは「戦争のやめかた」は教わらないもんなんだろうか。北朝鮮側の隊長が松尾スズキに似てた。
アウトレイジビヨンドは片岡つーマル暴刑事が山王会(ヤクザ団体)と通じあってさんざん旨味を吸ってきたものの、前回の抗争でのしあがったメンツをうまく御しきれないことに危機感抱いて、現メンツによってひきずりおろされた旧メンツであるたけしや中野さんを焚き付けてどうにか自分が旨味を吸いやすい団体にもどそうと画策する話。アウトレイジシリーズ2作みてしみじみ思ったけど、たけちゃんはそれぞれのキャラクタをどの俳優にやらせたらいいのかをすごくよくわかってて、そのしっくり感をたんのうするだけでもひどく満足する。関西ヤクザ親分の飄々とした雰囲気もいいし、中野さん(またボロボロになるのね)の弟分の血気さかんなチンピラ色もいいし、松重さん(はじめてイイ俳優さんなんだなと思った)の自分なりの道理を貫くマル暴刑事もいいし、暗殺者の克典なんて映画中ひとこともしゃべらないんだぜ(またそれがピッタシなんだ)。これ封切られてからだいぶたってるけど、まだ満杯だったよ。しかもカッポーだらけだよ。続編あるとしたらやっぱ韓国とからむんだろうな。いいねえ。さらに暴力に拍車をかけてほしい。パンフの写真でみるとわからないけど、なんか映画みてると全編が黄昏どきみたいな色合いだよね?あの死者の世界のような色合いが冷えてていいすねー。あと気のせいかもしらんけど、キャラの目がときおりにぶく光るふうにみえたんだが。なんか効果入りなのかしら。今回は前作ほど殺し方のバラエティは富んでいないんですけど、あのさいごのほうのバッティングセンター拷問さ、この前みたたけし美術展じゃないけどあのボールの方向をちょっとかえたり、道具立てをやわらかくしたりすればお笑い番組の1要素になりうるんだよね。たけちゃんのくりだす笑いに顕著なんだけど、ほんのちょっとズラすだけで「暴力」にも「笑い」にもなるんだよ。紙一重なの。アウトレイジシリーズでの拷問の場面と、たけし美術展に出てた体張ったコント映像(特に死刑百景的なやつとか)を同時にみるとたぶんやってること自体はさして変わらないと思う。それをどこをどうすれば笑いになって、どこいじると凄惨な暴力になるのかをたけちゃんはしっかり把握してんだよね。職人だな。アウトレイジでは恫喝シーンがいっぱいでてくるけど、今でこそ公ではそのテのガチのはみられないけどみえないところでちゃんとあるんだろうなと思った。
388はひとんちを家庭崩壊さすのが趣味の変質者が仕込んだ隠しカメラの映像オンリーで構成された悪意映画だった。今年の映画では屈指の胸くそ悪さ。パラノーマルなんかよりコッチのがリアル怖ぇよ。つーか隠しカメラがあるっての、もうちと早いうちに気づきそうなもんだけどな。やってみろよゴルァー!!て叫んだ直後に石投げられるとかどう考えても動向把握されてるじゃん。

 
本日題は思秋期パンフの内田春菊さん文から抜粋したモノです。