怖いのは後悔していないこと

悪の華(8日。イメージフォーラム)は何代か前からどうも殺しに関わってしまう一族の話で、出るキャラ全員が複雑な血縁の間柄なんですけど、これが日本の映画なら怨念だの呪いだのでおどろおどろしい雰囲気になりがちなんですが、シャブロル映画ではキャラたちがたとえ衝撃的な事実を目の当たりにしてすらじたばたしたりはせず、ゆったりとかまえて物事の経過を見守る的な胆の座った余裕が画面を支配しているので常に優雅です(犯人にあたるキャラがクライマックスで犯行を自白しても、お縄になるところや警察がきてゴタゴタする場面はぜったい映さないし)。若い子はもちろん中年の女性も必ずほっそりしてきれいなヒトばかりなうえ、そうゆう見た目の登場人物が高級家具が取り揃えられたお屋敷的な家屋の部屋にいる場面が多いので、いつなんどきも画ヅラは豊かに整えられている。ただ、若者と中年女性はきれいなんですけど、男は紋切り型のイケメンみたいのはぜんぜん出てこないんですよね。それはシャブロルだからってことじゃなく、フランスでの「いい男」の定義が日本やアメリカでの基準であるマネキン的な商品顔とはまったく異なったモノだからなのかなあと夫人と語ったりしてる。外形が整っているかどうかじゃなく、内面の良さ―大家族の面倒をみる義理堅さだったり、あるいは造詣の深い芸術をタネに女性を心地よくすることができたり―といった内側の味わいの良さを男の基準にしている。ゲンスブールにしろシャブロル映画の男優にしろ見た目はどこにでもいそうなかんじだけど、住環境からして相当の稼ぎ手っぽい場合が多い。賢く美しい―それを自覚している女ほどそれに見合った男を選ばなければならない。「顔が整った男」だろうか?それとも「莫大な資産を持った男」だろうか?その両方が揃っていたとしても、暴力を振るったり家族を顧みなかったりしたらなんの価値もなくなる。それを見抜く眼がなくては真の「いい男」をつかむことはできない。どの男をつかむかで女の頭の程度がわかってしまうんですな。おんなが本当に幸せを追求すると「いい男」の定義が内面第一義となるのはしぜんなことなのやもしらん。金太郎飴的なツラのキレイさやカネのあるなしだけを男の判断基準にしてるってのはつまり幼稚なままで成長してないってことなのやもしれません。あとシャブロル映画は夫にも妻にも連れ子がいて異母・異父・兄弟姉妹みんないっしょに暮らしてる的な設定がわりと多くて、それは男も女も恋愛感情に忠実だからくっついたり別れたりをしょっちゅう繰り返してるせいだからなんですかね?でも結婚離婚をくりかえす反面でなんか子供たちや家族の世話はちゃんとするみたいなんですよね。シャブロルも何回かの結婚で子供がわりといるっぽいんですけど、スタッフロールでかならず名字にシャブロルとついた人がでるし(パンフの説明ではたしか子供たちに仕事を与えてるとか)、フレンチ人てのは恋愛ごとで好き勝手やるわりに家族に対しては面倒みるし責任をキチッととるふう。おとなですなぁ。「連れ子に暴力ふるってギャーギャーやるのはそんな男をひっかけた女がバカだし、血縁にこだわってもめるなんてのはこどもなのよ。」とか夫人が一笑に付してましたが、連れ子モメは多くは貧乏が根っこだから一概におんなのバカさを原因としちまうのは乱暴ですけど、そうゆう諍いが起こる要因として「おとなになりきれてない」て事には一理あるやも。シャブロル映画で連れ子がみんななかよく暮らしてる的な話のときって、かならず金持ち設定ばっかしだから生活するに困ってるようすとかはサッパリないですしねー。ホレたハレたでは干渉しないけど、家族への責任はぜったいとるとゆう。フレンチ人というかシャブロルの「画面に品の良さを保つ」矜持と責任とるおとなさが映画の安定感の根っこなのかな。そんな中で1カ所だけ下品が炸裂するっつー。あそうそう、そんで悪の華ですけどアメリカいってた息子がフランスに帰ってきて、父親(だっけ)との車中での会話で「アメリカ人はたばこ吸わないんだって?」「連中はバカだけど、そこまででもないよ」みたいなやりとりをサラッとしててやっぱりフレンチ人はアメリカンをまるでバカだと思ってんだ…!て思いました。心のなかではどんなふうに思ってたって勝手だけどさ、他国でも公開される可能性のある映画作品のなかで「アメリカ人はバカだ」てハッキリ言わすか!すごい態度でかいシャブロルってゆうかフレンチ人!て夫人に投げかけたら「アメリカ人はフランスの映画なんかみるわけないって思ってそういうふうにつくったんじゃないかしら。あと、フランス人はアメリカ人だけじゃなくて他の国もぜんぶバカにしてると思う」て言ってました。商談でもふつうに態度でかいしな。シャブロル関係ないけど、ゲンスブール映画で最後のほうに日本人形が映ってたことを夫人がやたら不自然がってた。映画を「みるであろう」国のヒトをかなり意識するんですかね。フレンチ人のヒトって。

悪の華に関しては映画をみただけではかるいサスペンスものにみえたりしますけど、パンフで説明みると背景とかが混み合っててポンニ人には特にいろいろわからないネタ多し。そうゆう観たあとも考えちゃうところがいいのよー!とか夫人が言ってます。